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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(あ)1822号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人杣山彦一の上告趣意一ないし三は、違憲(二九条違反)および判例違反をいうが、その違反する判例を具体的に示していないばかりでなく、いずれもその実質は単なる法令違反および事実誤認の主張であり、同四は、量刑不当の主張であり、すべて上告適法の理由に当らない。

弁護人河和金作の上告趣意第一点について。

所論は、事実誤認を前提とする単なる法令違反の主張であり、上告適法の理由に当らない。なお、申請人の錯誤により、奈良県宇陀郡御杖村大字桃俣字西杉第千百四十番地の一山林十一町歩を、同所第千四百十番地山林十一町歩と誤記して申請した仮処分決定にもとづいて、右千百四十番地の一山林十一町歩についてなされた差押の標示は、その取消がなされるまでは、刑法九六条の差押の標示というを妨げないものと解するのが相当である。

同第二点について。

所論は、単なる法令違反および事実誤認の主張であり、上告適法の理由に当らない。なお、森林窃盗の犯人が伐採して森林内に放置していた伐採木を、仮処分決定の執行により執行吏が占有した後、右犯人がこれを森林外に持出して自己の占有に移した場合には、森林窃盗のほか刑法二三五条の窃盗罪が成立するものと解するのが相当である。

同第三点について。

所論は、量刑不当の主張であり、上告適法の理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

弁護人河和金作の上告趣意

第一点 <省略>

第二点 仮りに右の主張が認められないとするも、原判決は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると信ずる。すなわち

一、原判決がそのまま認容した第一審判決は、

(一) 被告人は、昭和三十年六月二十三日、桃俣一、一四〇番地の一の一の山林内において嶋岡富美子所有の杉檜立木約七十石を伐採せしめてこれを窃取し、

(二) (1) ……執行吏寺口正平が差押占有中の杉檜伐採木約七十石の中、同年七月十日頃約五十七石を県道まで搬出せしめ、

(2) 同年八月三日頃、右執行吏の占有保管に係る杉檜伐木約十三石を県道まで搬出せしめ、

以つて、それぞれ差押物件を窃取した。

と認定するのであるが、第一審判決挙示の証拠によれば被告人は、昭和三十年六月二十三日に桃俣一、一四〇番地の一の一の山林内において杉檜立木約七十石を伐採し、同年七月十日頃及び八月三日頃の二回にわたり右伐採せる立木を人夫片岡由松らをして県道まで搬出させたことが明らかである。しかして、右判決における適条には、右三個の行為について、ともに刑法第二三五条を適用するのみである。

立木窃盗における既遂時期につき、伐採行為の終了と同時に窃盗既遂罪が成立し、その他に搬出、製材等の行為を伴うことを要しないとすること、判例である(註三)

註三 大正十二年二月二十八日、大審院刑事第三部判決、大審院刑集二巻一四七頁

とすれば、右(一)の点において既に窃盗既遂罪が成立しているとみるべきであるから、爾後の(二)(1)及び(2)の行為は、窃盗罪における不可罰的事後行為として刑法的評価の対称から除外されるべきである。

二、仮りに、本件仮処分が有効であると解した場合に、右(二)(1)及び(2)を(一)とは別個の窃盗罪として構成せんとするならば、本件物件が差押物件である事を適条を示してその旨の摘示を為すべきである。

本来ならば不可罰的事後行為として是認されるべき行為について、差押という国家行為が介入するが如くに別個に犯罪を構成すると解するのであるから、右は構成要件的客体を特定する意味において重大なる機能を営むものでありこの点についての適条の表示は重大な法令の違反であると思料する。

三、しかるに、前述の如く、桃俣一四一〇番地の一として為された本件仮処分は、本件物件についての仮処分としては無効であると解せざるを得ないのであるから、本件物件が差押物件であると言うことは出来ない。結局、県道まで伐採木を搬出せしめた被告人の行為は、いずれにしても別個に窃盗罪を構成すると解することは出来ないのである。

以上は、いずれも判決に影響を及ぼすべき重大なる法令の違反であつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると信ずる。<以下略>

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